◎改行されゆく地平線
由木名緒美

蛹の中で身じろぎする幼生の
息遣いほどの微雨
清流に屹立する山岳の岩は
主たる寡黙な黙想に耽り
棲みつく生物たちの呼吸を内包する

母を疎う駄々としてか
広野に下りた者は口々に囁く
懐古こそを真先に捨てるべきだと
高層建造物の乱れ咲く理想郷で
梱包された生花に羽虫は雑音を奏で
人は化繊の作法で首を垂れる
ならば人工知能の祝慶を以って
雄山からの独立は果たされるのか
無機への完全なる源を見出して

アスファルトの亀裂からさやぐタンポポ
送電線の上に憩う鴉
地下水脈の午睡にまどろむ街で
路地から路地へと犬は尾をふり
平和の微笑みを瞳に映す
はぐれ者の給餌に寄り添う猫は
成約の漏洩に耳をそばだてる

オーロラが大気を離れる時
人は畏怖の何たるかを忘れる
旅客機の轟音に怯える耳は
それが上空に上がる様を見て
どんな祈りを叶えるのだろう

この血脈が薄まっていくのならば
最果ての地へと秘匿を埋蔵しに行こう
裸のあなたが魂に刻んでいる装飾で
苔生した石碑の真理を謳ってほしいのだ
逡巡に暮れるこの街の行く末は
音速の進化か口伝の復刻か
半導体を耕す指先の温もりに
選択の灯火は意志を持たないとしても








自由詩 ◎改行されゆく地平線 Copyright 由木名緒美 2016-05-04 01:00:01
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