悲しみ
ベンジャミン

感情というものは
外に現れようとする衝動ですから
奥歯で
ギリギリと音を立てれば
痛そうに響くもの
すべて捨ててしまったと
言う人は
一つ何かが増えるたび
ただ恐ろしく感じます
何かで満たされるということに
罪を感じたりもするのです
不幸を語る口を
斜めに傾けるそぶりは
そこからこぼれる
自分の言葉を眺めている
一人分の食事の支度をして
悲しいと
呟くのは暗示です
味もしない料理に
塩が足りなかったと思うように
満たされる空腹を
悲しそうに吐き出せば
そこで吊りあうことに安心する
からっぽになった皿を
水も張らずに流しにかたして
箸の色がそろっていないことに気づいても
それは少しおかしいだけで
悲しみは
欠けた茶碗の
見当たらない欠片のようで
ビールの空き缶の
ひしゃげた格好のようで
でも
ただ在る光景は
見たいように見ているだけで
冷たい水に手を浸し
数えることもなく皿を洗い
感覚もなくなってしまったはずの

その
薬指が
少し軽く感じられる
錯覚のような
曖昧さに

似ています







自由詩 悲しみ Copyright ベンジャミン 2005-02-24 13:05:51
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