といれのかみさま
服部 剛

鈍く光る銀色のドアノブをひねり
といれに入ると
窓辺にはうす桃色の薔薇ばらが咲いていた

水色のすりっぱには
背中合わせのふたり
男の子は贈る花を背に隠し
女の子は四葉のクローバーの葉をちぎり
風に放っていた

すっきりとして
日常のもやもやの全てを便器に流すと
薬用石鹸せっけん「キレイキレイ」には
白球を手にした野球少年と
花を手にした女の子と
ふたりの小さい手を取って
間に立つお母さんと
みっつのほほえみを並べていた

今までの想い出の全てをといれに残し
洗った手でドアノブをひねり
外へとつながるこの世へのゲートを
くぐろうとするその時も

といれの薄汚れた壁にかけられた
2月のカレンダーの中では
水面みなもの凍った阿寒湖あかんこで父と子がしゃがみ
氷の穴に釣り糸を垂らし
青い闇に銀色の光で泳ぐワカサギが竿さおをしならせる瞬間を
ほのぼのと待っている

それでもなお
大事なものの全てを封じ込めるように
といれのドアを背後にしめて
僕はこの世に舞い戻る

小脇には
といれのかみさまを
大事に抱えて

( 窓の外では
  正午を知らせる教会の鐘の音が風にのり
  世界には無数の透明な鳩が羽ばたいていった
  青く澄んだ
  空の向こうへ                )                   

















自由詩 といれのかみさま Copyright 服部 剛 2005-02-24 12:21:49
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