夜の絵
木立 悟





真昼の中庭の暗がりに
石の民が踊っている
風が降っている
畏れが降っている


雨が雨を連れ去り
夕暮れも無く夜は来て
水は水を照らしている
夜の夜を照らしている


径に鋏の絵を描く子が居た
子は言った これを描けば月は消えてくれる
誰も何も言えないまま
また一日が過ぎていった


音も水も無い夜に
袋の爪は背いて歌う
静かな針の立ち並ぶ径
叫ぶ声のとどかない径


光の鱗の朝から朝へ
ひとりゆうるり遠退く影
むらさきの布 白い髪
踊りつづける石の民の影


針のはざまの静けさを喰い
夜は空に花を撒く
ひとつひとつが
泣き顔の花


径に描かれた鋏の絵が
いつのまにか月の絵になっている
誰も空を見ないまま
また一日が過ぎてゆく


水と花の積もる径に
子がひとり立っている
足元に踊る石の民
そっと涙を持ち去ってゆく























自由詩 夜の絵 Copyright 木立 悟 2016-04-30 19:44:54
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