春のたまご
石瀬琳々

春はまあるいのです
まあるくて秘密を抱えているのです


淡い色で揺れている わたしの胸のうち


やわらかくて抱きしめてしまいたくなるもの
それともきつく抱きしめて壊したくなるもの


本当は好きって言いたいのに 口をつぐんで


海があるのかも知れない
あのひとの心が打ち寄せる波打ち際があって
わたしは宝物のように大事にしまっている
耳を寄せて聞いてみるのです
もしかあのひとの鼓動かも知れなくて
ひとしずく、こぼれたら溺れてしまいそうで


海はときどきこわくなる


小鳥が眠っているのかも知れない
いつか飛び立ってしまうあのひとの心を閉じ込めて
わたしのために鳴いてくれる日を夢見ている
ふるえているのは誰?
いいえ、わたしの心臓かも知れなくて
恋しさに突かれて胸の奥が痛くなる


小鳥はときどきさみしくなる


抱きしめていたいからいつまでも たまごのままで
そっと壊れないようにいつまでも 生まれないままで


ああ、春はまあるいのです
まあるくてやさしいのです


そして意地悪な指先で
わたしをつかまえてしまう


だから逃げようとしても追いかけてくる


生まれようとしている あふれようとしている


わたしの心を




自由詩 春のたまご Copyright 石瀬琳々 2016-04-25 13:16:19
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