抱き合う
瓜田タカヤ



子供を抱いて病院を後にする。
今日は風が強く寒い一日だった。
子供の体が冷えないように
ぎゅっと抱っこしてあげて車まで小走りに行く。

車にて子供が「二人っきりの、きりってなあに?」と俺に聞く。
「それだけって事なんだよ。」と伝わったのか微妙な
色々な説明をして、何とか満足してくれたようであった。

家に着くと、タオ(犬)がゴミ箱を荒らし、部屋がごみまみれであった。
そして居間の畳で爪をといでしまい、畳の一部が
藁と藁の粉末の固まりと化してしまった。
俺は怒りで何度もタオを恫喝したら、子供が怒らないでと泣いてしまった。

タオを玄関に出し、家の中に入ってこられないようにして
部屋を片付けた。
グァーっと健介(プロレスラー)のような声を不機嫌に発しながら
掃除機をかけた。子供が
「パパとカイリ朝、保育園に行くから、タオ一人っきりだから
 さびしいんだよ。」と言った。

俺は夜中、怒りの気分転換にその後、子供を連れて銭湯に行った。
二人で風呂に入った。
風呂上り、銭湯のくつろぐ空間はもう閉店5分前くらいのせいか
誰もいなかった。
二人でジュースを飲んだ。
子供はボトルの蓋を開け閉めできるのを何度も見せる。
俺もそのたびに、大げさに驚いた。

さっぱりして、銭湯を出た。
やはり外は寒かった。
子供を抱っこして、車まで行った。

彼女の体が冷えないように、抱っこして歩いていた時、
それは俺自身も寒さからの逸脱をはかろうとしていることに気づいた。
暖めるという行為は、
同時に自分をも暖めてもらっているという行為であるのだと思った。

人は、冷えた身体(死)を抱擁により、否定することで
生きるための勇気を与え合っているのだろう。

俺とカイリの生活に愛する母親はいなく
それは2ヶ月間続いた。

それは僕がカイリを愛するから生きていけた訳じゃなく
愛しあえたから生きていけた日々であったのだ。


散文(批評随筆小説等) 抱き合う Copyright 瓜田タカヤ 2005-02-24 03:08:22
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