その都市 1
非在の虹

その都市は極めて奇妙な特徴を持っている
すべての建築物は窓を持たず、扉すらない
従ってその都市を俯瞰すると
一見広大な墓地を見るようである

しかしどの建築物も天を衝く高層ビルだから
道路から見上げるビル群は銀色の光を蒼穹に反射させ
神々しさをも感じるだろう

その都市の奇妙さは
どこを歩いても
一人の人間にも逢う事がないという所にもある

ただある種の人間がある種の思考
もしくはある種の感情にとらわれた時
必ず訪れるらしい

らしいというのは
訪れた人を見る第三者が存在しないため
訪れるという行為がその都市にとってフィクションである可能性が
あるからだ

人間と言えば、その都市に人間は住んでいない
都市の設計者もいなければ、建築者もいない
その都市を目撃した者
その都市を体験した者
はたしてそれらの者はどこにいるのか
知る者はいない

従って都市の存在そのものを疑う者もいるという
では何をもってその都市は存在しているのか
ただ語られる事
人は折に触れその都市を話題にする
その事によってのみ都市の存在は強固なのである。


自由詩 その都市 1 Copyright 非在の虹 2016-04-23 07:05:06
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