もと居たところ。
梓ゆい

一枚の写真を眺めると
緊張した面持ちの5人家族。

この日は主役の末娘が
口をへの字にしてレンズの中心を見つめている。

(少しでも良いから笑えばよかったのに。)
20年後
写真を手帳にしまいながら
仏頂面の長女はため息をついた。

部屋の掃除をしていると
何処からかありがとう。の一言が聞こえるようで
より一層畳を磨く。

そこにいるはずの親父に笑って欲しくて
長女は仏間の花を
丁寧に飾り付けた。

いつも通りのことをしていると
ふすまの向こう側で茶をすすり
新聞のテレビ欄とにらめっこをする親父が
大きな声で呼んでいる気がするのだ。

そろそろお茶にしよう。と
どら焼きを一つ差し出して
「あづさ」と描かれた湯飲みに煎茶を注ぎながら。


自由詩 もと居たところ。 Copyright 梓ゆい 2016-04-22 04:16:57
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