とおくなる浴室
Seia

電気を落とした
湯船に入り
じぶんの顔をまじまじとさわる
こんなところに

あったっけ

どれだけいきても
わからない
ことは
どれだけしんでも
わからないのだろうよ

暗闇のなかから
ドアの外
反射して
うすぼんやり

滅しているのは
24時間働いている換気扇を管理する光

足を折りたたみ
上を向いて
全体を沈める
耳が
お湯に少しづつとけて
からだの
音が聞こえる

ちいさいころ
つまらないことで
ひびのはいった
小指の第二関節を
まげる
きしむ
とおい
音がする

今朝食べた
パンの歯ざわり
数年前
タクシーに轢かれた
バンパーの圧力
写真でしか知らない
幼稚園のクラスメイト
明日
起きなければいけない時刻
それぞれを
思い出す

目は
ずっと開いている
見えるものは
とてもすくないですけど
閉じたら
そのまま割れてしまいそうで

浴室の外
いつかのわたしが
バスタオルを広げて
帰りを待っている



自由詩 とおくなる浴室 Copyright Seia 2016-04-19 15:35:40
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