零の世界
服部 剛
――あなたは、聴くだろう。
日々の深層の穴へ
ひとすじの釣瓶が…下降する、あの音を。
――漆黒の闇にて
遥かな昔に創造された、あなたという人。
遺伝子に刻まれた、ひとつの約束。
そうして 〇 年前
あなたは、世に産声を上げ
青い空の水面は微かに、揺れた。
あの日、零歳だった、あなた。
無垢な瞳を、凝らしていた。
(ふいに天井を過ぎる天使の姿)
渦巻く耳を、澄ましていた。
(窓外の風と花々の奏でる世界の唄)
大人になるにつれて
深まる夜に蹲る、人よ。
あなたは想い出すだろうか?
世界は交響曲であり
天のメロディを担うあなたが
ひとりの音符であることを。
旅人は、山谷を潜り抜け
道は霧の彼方へ延びるだろう。
この世の秘密にふれる、その日まで。