母よ
藤鈴呼


三軒隣りの家まで
全て巻き込んだような どでかい虹に
たっくさんの夢を
詰め込んだら 

吐き気がした

ねぇ 御母ちゃん 
もう お腹いっぱいだよって
呟くけれど 許してくれない

御母ちゃんの 御母ちゃんが 
丹精こめた 米粒だから
たとえ 一粒たりとも 
残しては いけません

よもや 残すまじ
もはや 残すなんて 
選択肢は ナンセンス

洗濯機を回しながら 
釣り目の貴女が 微笑むから
ワタクシは 下を向く

ぶくぶくぶく
白い泡とともに
言いたい台詞ばかりを
いつも飲みこんでは 吐き散らかす

父のように
好き勝手には 生きられまひと
涙を流すくらいが 関の山

この辺りは 昔 関所だったのです
したり顔をして あなたは ほほえむ

どんな 困難すらも 整えるかのような 表情で
凛とした 瞳ばかりが 煌めいていた

母よ
母よ
母だから

色んなお宅の母親が
色んなお宅の子供によって 再現されるけれど
わたくしの言う ハハとは はは
あなた 一人きりなのですよと
もう一度だけ 呟けば

ぶくぶくぶく
飲みこむ筈だった 言の葉が
キラリ

たった 一週間しか 持たなかった 枯葉と共に
舞い上がる
舞い踊るよ

ねえ もう一度だけ
タンゴを 教えてよ

もう 黒猫が 目の前を 横切っても
大騒ぎ しないからサ

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自由詩 母よ Copyright 藤鈴呼 2016-04-16 00:40:57
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