缶詰
あおい満月
視界にはたくさんの目がある。
開いた画面に浮かぶ目玉は、
口になって牙を剥き出している。
口になった牙を生やした目玉が
私の目を喰らおうとする。
瞬きひとつでページをかえると、
今度は手になった耳が、
くしゃくしゃになった鍵盤を弾いている
手になった耳の鋭い爪が、
私の聴覚を撹拌する。
かき混ぜられた三半規管に散らばる。
聴こえぬ音たちの足跡。
鏡台を開くと、
指になった髪たちが、
からからからから、
あや取りをしている。
指になった髪たちは、
切れてはまたその枝先から現れて、
蟹のようにハサミで会話をする。
目覚めた朝の祭りの後は、
まるで蟹たちが散ったかのように、
細かい残骸が四方に散らばっている。
缶詰を開けると、
思考の切れ端が、
異臭を放ちながら飛び出してくる。
蛸の足のような切れ端たちは、
噛み砕けば噛み砕くほど、
深い味がして、いつしか私は、
眠り込む。