ヒトクイバナの心
あおい満月
ごろごろごろごろ ごろごろごろごろ
(肉ガ欲シイ、肉ガ欲シイ)
灼熱の太陽の光さえ届かない、
湿った森の奥で、
ごろごろごろごろ ごろごろごろごろ
(肉ガ欲シイ、生キタ血肉ガ)
喉を鳴らしながら、
目を閉じて時を待つものがある。
あれは確かアマゾンだったか。
湿った深い森の奥に、
人の肉を喰らう花があるという。
花は人の血を養分として、
花開く口だけが異様に大きいという。
ふと思う。彼女は何故人を喰らうのか
何故、人でなければならないのか。
ごろごろごろごろ ごろごろごろごろ
(何処カデ、血ノ匂イガスル)
遠くから何者かの足音がする。
獲物を求めてやってきた狩人か。
ごろごろごろごろ ごろごろごろごろ
(間違イナイ、 アレハ人間ノ足音ダ)
すると花は 自身の体内から、
人を誘き寄せるような匂いを放ち始める
狩人が何かに気づく。
彼は見つけた。
森の奧深くで、
眠るように咲いている花を。
大きな花弁を持つ妖艶な花。
彼は思わず手を伸ばす。
すると、
それは、
光よりも早い一瞬だった。
花は口をばっくりと開き、
彼の指先を飲み込んだ。
バリバリと骨を砕く花の牙、
あふれでる狩人の血。
花は快感に輝き、
狩人の悲鳴が森に谺する。
ごろごろごろごろ ごろごろごろごろ
(私ガ本当ニ欲シイモノハ)
花には本当は感情などない。
けれど、何故人なのか。
わからないまま生きてきた。
ごろごろごろごろ ごろごろごろごろ
(血肉デハナク細胞ナノダ)
彼女は本当は人間の脳が食べたい。
人間の脳細胞にひそむ、
愛情や憎しみ、希望や失望の味を、
飲み干したくて堪らない。
彼女には友だちはいなかった。
愛されたかったのだ、心から。
ごろごろごろごろ ごろごろごろごろ
今日も湿った深い森の奥から
彼女の喉を鳴らす音が響く。
ごろごろごろごろ ごろごろごろごろ
愛される時を待つ孤独なブルースが。