姫たちのお茶会 上
るるりら
ハイバックの助手席じゃあ
帽子のツバが すこしむずかしい
すこし雨滴のあとの残る車窓から見える景色は
映写機のように枠のある動画
だけれども携帯の電池なんて いらないよ
幸運にも にわかに咲いた桜さくら さささと 風に舞うのを
仰向けで空を見ているレンギョウも 菜の花も
谷合いの町のいたるところで咲く
しばらく 首をかしげたりすると腹痛になっちゃいそ
まるで押入れにとじこもる子どものように
腰をかがめていたのだけれど ついに到着
霧の夜でリンスした髪を 自由にすることにした
車を降りたら
傘のようにふくらむスカーチョは たふたふ
小ぢんまりとした変身願望が ゆれる
人里離れたレストランのオーナーが 開けようとしているのは
暗号をとじこめたゼンマイの壺
大切に匙で掬っているのは
蕨と龍とがおしゃべりしてるようなペーズリーが
丁寧に煮られて透明をまとった勾玉たちになったから
テーブルの下で傷つき
ぶっきらぼうに寝そべるタイプライターが記憶しているのは
時間と空間の錬金術
そのうち庭の生簀の水槽にはねる錦鯉が空を泳ぐころには 薔薇も咲くだろう
この陽気じゃあながいながい風の楽器に誘われて
白鯨だって遊びに来るかもしれないね だけれど今は ラズベリー
ベリー血のさわぐストロベリー ケーキといっしょに
最後に運ばれてきた花のお茶は、飴を溶かしたような薫りだよ
魔法のような味
だけど ここのご主人は魔法使いなんかじゃないんだなあ
隣のテーブルの脚をごらんよ
錆びたケーキの型を接着剤で留めて高さ調節してある
近所にこんな店があったなんて素敵ねなぁんて ふたりでおしゃべりしていたら
大航海時代の船の中みたいに わたしたち同じように ゆれた ら
オーナーの てのひらから 空き缶が捨てられた
色あせた常盤色の缶詰には古いカードを思わせる絵柄があり
1694年と刻印されていて そこに描かれている姉妹もまた
わたしたちと おなじように ゆれていた
********つづく**********
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《姫たちのお茶会 2016年四月企画の幻想詩30への投稿作品
【人間関係】/姉妹【舞台】/時間が交錯します》
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