布団ひっかぶって寝転がっても
イナエ

海が盛り上がり 
浪が陸に襲いかかる 
浮き桟橋を 港深く押し込み
道路に船を押し進めていく 
車が逃げる 人が逃げる 
テレビの画面

ソファーに掛けた私には
わらしべ一本投げ入れられない現実
あの夜の恐怖がよみがえり胸を揺する

 風が海を誘って陸にかみつき
 人間の集めた丸太を解き放して
 家を人を襲っていたことも知らないで
 路地裏を抜ける風雨に怯える家の
 撓む窓ガラスを押さえていた
 暗い宙を屋根瓦がひらひら流れていく
 “もしガラスに当たったら…
 砕け散った窓ガラスが襲いかかる幻想に
 無力感が背をつらぬく
 “こんなことをしていたところで…
 布団を被って寝転がってしまった

自然はけっして人に平等ではない
時間の あるいは場所のずれで
土石流に埋もれる人がいる
火山弾に撃たれる人がいる
雪崩の上を運良く滑る人もいる

海や山に襲われる人よりも
ソファーに掛けて見ている者ははるかに多い
だが 画面の向こうで
自然が人の命を奪うとき
恐怖を共感し得ても
人々を助ける手も 心も届かない
としても 己を突き刺す痛みに 
言葉はいつまでも胸に留まり…


自由詩 布団ひっかぶって寝転がっても Copyright イナエ 2016-04-02 21:56:18
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