『人体模型ノぶるーす』 /【笑い部門】
ハァモニィベル
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『人体模型ノぶるーす』
SCENE1.(校庭にて)
ものすごい音がした。
登校中の生徒たちはみな、
音のする方を見た。
―光り輝く羽飾りのヘルメット
―厚い革製の盾を腕に通し
―青銅の長槍を空に突き上げて、
四頭の馬が曳く戦車にのった中年の男が校庭を駆け回る。
「校長は飛び抜けて物凄いですな」 新任の真紫に髪を染めた教師が他の教師に話しかける。
「あの校長のおかけでこの学校は自由が保たれてますがね」初老のステテコの教師が答えた。
「教師は全員キャラが立っていなくてはいけない。そう教育法に定められましたからね。フフ」
と鼻をサソリに挟ませた教頭が皮肉そうに横から口を挟んだ。
SCENE2.(教室にて)
「はぁ~い、ハイハイ。みんなおしずかにネェェン。
みんな、もう ようちえんじゃ ヌぁ ウィん ドゥワ から。さあ
今日から、小学生なんだから、しゃんとしましょうねシャンと。
はぁ~い、じゅあぁあぁあぁ、あらためて、
みなさんに ごあいさつ しまスぅぁね。
みなさんを うけもつことに なりました。ワタシがみんさんの先生の、ホモ・サピエンスでぇす。
今日から小学一年生になった、ネアンデルタールのみなさぁん、よろしくねぇん。
一時間目は、二足歩行のれんしゅうよ。そう言いながら《前へ倣え》を教えますけど悪しからず。何も疑っちゃダメよ。さあさ、じゃあ、みなさん起立して後ろに整列。さあさ さあさ」
SCENE3.(家庭にて)
子「ねえ、おかあさん!飼ってもいいでしょ」
母「何を飼いたいの?」
子「フェリス・シルヴェストリス・カトゥスだよ。ねぇいいでしょ」
母「駄目に決まってるでしょそんな得体の知れないもの。」
子「ねえ、おかあさん!いいでしょ。ねぇおかあさんたら」
母「絶対にだめよ!ダメです。そんな気持ちの悪い。」
*
父「どうしたんだい。一体、何の騒ぎなんだい?」
母「この子が、フェリス・汁べと何トカ が飼いたいって言うのよ」
父「そうか、猫とか犬ならいいけどな、汁べとは、父さんもちょっとな」
母「だから、勉強するんじゃないって言ってるのに」
*
(翌日)
父「ただいま!おーい来てごらん。ほら」
子「あっ、カニス・ルプス・ファミリアリスだ!父さんやった」
父「何、これはブルドッグじゃないのか?」
母「まあ、何なの。二人共どうせ面倒みないくせに」
*
子「この犬、けっこう暴れん坊だけど、性格は真っ直ぐでいいやつみたいだ。
よーし、だから、名前は、子路にしよう。」
父「シロか(なるほど黒白だけど、白のが多いからな)そうだな、そうしよう。ははは、はは、ははは、ははは、ははは。」
SCENE4.(六年生の放課後)
「ねえ、ベル君。わたしのどこが好き。」
「え?うまく言えないんだ」
「じゃあ、このノートに書いてよ」
「え?新しいノートなのに、そこに書いちゃっていいの?」
「ねぇはやく。お願い。好きなところあるんでしょ?」
鉛筆を取りあげると、彼は、
緊張しながら、
彼女がいつも、後ろの席にいるじぶんの方に振り向いて
明るく話しかけてくるときの爽やかなあの笑顔を思い描いた。
そして、真っ白なノートの真ん中に、
こう、書いた。
胸鎖乳突筋
(バチン!!)※頬をぶたれた音
「酷い!! わたし、乳首立ってないからね!」
「う、うん。ごめん」
*END*
(註)
○フェリス・シルヴェストリス・カトゥス=Felis sylvestris Catus(猫の学名)
○カニス・ルプス・ファミリアリス=Canis lupus familiaris(犬の学名)
○子路……孔子の弟子。敵に躰を斬り刻まれて死ぬ。最期の言葉は「君子とは冠を正して死ぬものだ、さあ見よ」
○胸鎖乳突筋 ……ぶたれた彼の横顔の下に見えたであろう首の筋肉。
〔 人体模型ノぶるーす .2016年4月2日〕
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