朝に見る
ヒヤシンス


 高い木立に囲まれた一本道をきつく踏みしめて歩いてゆく。
 耳を澄ませば遠く小川のせせらぎや鳥たちの声が聞こえてくる。
 道端に目を向ければ昨年の落ち葉が未だ残っている。
 誰かの庭では明るいパンジーが顔を開いている。

 ブルッフの協奏曲が似合う朝、森の静寂は私に与えられた唯一の特権だ。
 そんな朝、私は古びた一冊のノートを持って庭のテラスに出る。
 ノートを開くと、そこには文字が踊ったり落ち込んだりしている。
 積み上げられた思い出は少し苦いが大切な宝物だ。

 良い思い出はさらに美化され、良くない思い出は腐敗する。
 しかし私はどのページも捨てる気にならない。
 それが私の歩んできた道だからだ。

 私は苦笑いしながらノートを閉じる。
 そして朝、薄く霧がかった森の中を散歩する。
 誰かの庭で咲いているパンジーが全ての人の笑顔に見える。


自由詩 朝に見る Copyright ヒヤシンス 2016-04-02 03:08:16
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