朝に見る
ヒヤシンス
高い木立に囲まれた一本道をきつく踏みしめて歩いてゆく。
耳を澄ませば遠く小川のせせらぎや鳥たちの声が聞こえてくる。
道端に目を向ければ昨年の落ち葉が未だ残っている。
誰かの庭では明るいパンジーが顔を開いている。
ブルッフの協奏曲が似合う朝、森の静寂は私に与えられた唯一の特権だ。
そんな朝、私は古びた一冊のノートを持って庭のテラスに出る。
ノートを開くと、そこには文字が踊ったり落ち込んだりしている。
積み上げられた思い出は少し苦いが大切な宝物だ。
良い思い出はさらに美化され、良くない思い出は腐敗する。
しかし私はどのページも捨てる気にならない。
それが私の歩んできた道だからだ。
私は苦笑いしながらノートを閉じる。
そして朝、薄く霧がかった森の中を散歩する。
誰かの庭で咲いているパンジーが全ての人の笑顔に見える。