ときあかす
高橋良幸

色あせた空やアスファルトを塗りに行くだけならやめておいたほうがいい
外は灰色
長い冬のあとも忘れぬ雨の匂い
街は濡れその色を自ずと濃くする
足音は秒針よりも少しだけ速い
白昼夢は一番星のような天体
足元や透けた傘に思い出した音が煙る
あの歌声はまだ響くかな

数週間も野ざらしのブラウン管に映り込む景色はやさしい色をしていた
スローガンだけの相変わらずな生活は
その向こうにどう映っているのだろうか
スピーカーが音を拾うように
RGBに分解された一瞬の映像が
錆びたレジスタに蓄えられているはずで
脳裏にはそれが数十光年先まで広がる

捉えた光はいずれ頭蓋の闇に消えてしまうから
繋ぎ止めるために音楽を練る
わきあがる像も伝える光にはなれぬから
反芻した言葉をそれに重ねる
足音は秒針よりも少しだけ速い
自意識は真東から昇る天体
足元や透けた傘に創り出した音が煙る

匂い始めた夜の空気に何かあるはず
世界は瞳孔が拾う五ミリの円い光=天体=丸い天体


自由詩 ときあかす Copyright 高橋良幸 2016-03-26 21:33:55
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