ランチの時間
ホロウ・シカエルボク







微細なノイズが連続する頭蓋の内壁で半端な崩落のまま凝固した自我が瓦礫の隙間で高笑いをする午前の一瞬、極限まで見開いても目視ままならぬ目と麻痺した鼻腔の捉える嘘、甲状腺の異常の懐かしい記憶がきちがいじみた心拍数のノッキングを脳髄で再生するとき、とろける現在で神経を逆走する微弱な電流を無意識に追いかけていた、残骸がしっかと生存しているので確信が呆けている、幼いころ高熱の中で見た幻影のようなリアル、もう解熱剤など何の役にも立たない、汗ばんだ寝床の辛気臭さと在り得ない曲線の羅列、起きているのに仰向けでぶっ倒れているような…時計を見ようとしていたことを思い出す、時間を認識したがっている、長針と短針と秒針の便宜的な定義、それは時とはなんの関係もないものだ、とっくに判っているのに未だに覗き込んでしまう、時計、時計だ、時計は何処にある、何処に置いた?疑問でしか進行しない、あやふやな固形物に弄ばれているような自室、連動する無数のギアが盤上に表示するものは結局認識出来ない、それは創作物のように忘れられてしまう…指針を無くしてしまうとそこにはまた、曖昧で鋭利な漠然とした概念だけがある、コーンポタージュ・スープの海の中でガラスの破片を踏むような概念、五感は時間のようにただ設えられた機能としてそこにあるだけの気の利いた装飾物だ、感覚が知覚する真実など所詮その程度のものだ―輪郭のないものを嚥下しなければならない、それから造形していく、胃袋の中で蠢くもののイメージ、神経が作り出す絵面を、正確に変換しなくてはならない、それは限定され過ぎない、それは曖昧になり過ぎない、語るべきものをきちんと語ったものでなければならない、五感以前の段階で認識されるものの旋律、細胞の核が奏でる無軌道な…肉体を維持したまま、肉体が不要な世界のことを…内奥を振り回されたまま便所で小便を垂れ流せば最新の記憶には色がつく、瞬時に定着される、現像技術は必要ない、そういう意味では網膜は優れている、立ち上がると空間はさらにゆがみ、揺らぐ、不調なタービンの遠心、回転数を散ばらせながら連続する―連続する微細なノイズ、それは何処から続いている、それは何時から続いている、こうして生身に翻弄されるたびに繰り返される同じ風景、同じ扉が蹴破られて、同じものが零れ落ちる、廃屋の壁が崩れ落ちて振動のたびに残留物が零れ落ちるように、何も失われたことなどないのに、そこには絶対的な死の感覚がある、まるで死んだことを覚えているような、そんな…太陽は照りつけながら、明日降るだろう雨の向こうに隠れることばかりを考えている、それはもうすぐ真昼の先端に到達しようとしている、空腹感は忘れられたまま、がらんどうの胃袋は生体組織を溶かし始める。










自由詩 ランチの時間 Copyright ホロウ・シカエルボク 2016-03-26 11:39:49
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