呼ぶ
葉leaf



幼い日
デパートで迷子になって
必死に母を呼んだ
フロアをひた走り
血眼で母を探して
大声で母を呼んだ

その呼び声は
今も私の中で響いている
私はそれを聞きながらも
日々生活するための
語りの声でかき消して
ついぞ人を呼ぶことをしない

私は今日も迷って
誰かを呼びたくて
しかし誰を呼んでよいのかわからなくて
自分にばかり呼びかけている
おーい、誰か
漠然と呼びかけてみて
振り返るだろう人の顔を
私は実はよく知っている

私は人を呼びたくて
呼びかける相手もたくさんいて
呼び合えばきっと親しさで包まれる
だが呼び声は決して外には出ない
内側でこだまを繰り返して
どんどん積み重なって
ただまなざしの中へとにじみ出ていく


自由詩 呼ぶ Copyright 葉leaf 2016-03-23 04:33:20
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