ここから
線香花火のように見えます
あの日
あなたが燃やした命

このまま
つづくわけがないと思う日々が
案の定
抜け落ちた日々

日々から日々が抜け落ちた日々は
日に日に遠くなり

ここから
線香花火のように見えます
あの日
あなたが燃やした命

乱れ咲く桜は
淫らには散らず
イルカのように宙を泳ぎ
私は
品川の水族館であなたと
イルカの跳ぶ姿を見ながら
そんな
見も感じもしたことない風景を
思い描いた

イルカは海面から半円を描く
地球はそのたび微かに縮み
火炎が地表から半円を描く
太陽はそのたび微かに膨らむ

ここで
赤が愛でる青は
緑の子を抱き
黄色い
声の響く先に
黒い板を用いて
白いチョークをこぼす

その
白いチョークの滓は
ビスケットの滓とまじり
午後１時のテーブルに
コーヒーは煙を立ち昇らせ
湿気た煙草は
６月の路上に淋しく泳いだ

死体を運ぶ列車に
とうに追い抜かれて渡り鳥は

踏切を
また
踏切を

なにごとも
なく

渡り

なにごとも
なかったかのように
死体は瓶に詰められ
出荷される

それは海を渡り
それは誰かの首筋をぴたりと撫で
それはオフィスの書類にまぎれて
苦しいのは
あなただけではないからと
顔のない人たちを慰めるのだろう

ここから
はじまったすべては
ここに置いて
このまま
はじまらなかったすべてだけが

ここから
あなたが
持ち出せる

すべて