言葉に溺れていく
itukamitaniji

言葉に溺れていく

「また言葉に逃げるんだな」 外見の身体がつぶやいた
中身の心は隅っこに 隠れて聴こえていないふりをしている
君は今でも 過去を真空パックすることに夢中でいる
少しの汚れも入らないように なるべくきれいに清純にと

自称詩人のあの人も いつかは現実の世界に帰って行った
なんだよつまんねぇな ずっと仲間だと思っていたのに

閉じた扉の向こうから 言葉が言葉が溢れてくる
もういいよたくさんだ 背中で必死に扉を押し留めようとする
これは本当に僕の言葉なのか 信じたくないほど汚らしい
とめどなく溢れてくる ずぶずぶと言葉に溺れていく


「また言葉に逃げるんだな」 言葉は僕を裏切らないからって
そりゃそうに決まってるだろう お前が選んだ言葉なのだから
無菌室に閉じ込めて 死ねずに磔にされているいつかの言葉
信念というよりもう洗脳に近い いつでも正しくその通りにと

夢を語りあったあの夜だけ 繰り返しループしている
なんだよつまんねぇな もう誰も居なくなっちまった

閉じた扉の向こうから 言葉が言葉が溢れてくる
こんなのは僕じゃないって 遠ざけ続けるそれはまさしく
いつか好んだ僕の言葉だった そしてここに立つ僕でさえ
未来の自分に殺される身だ ずぶずぶと言葉に溺れていく


血だらけの手で立つ僕の背中に 足音が迫ってくる
どうやらもうおしまいだ 外見の身体は覚悟した
中身の心はみっともなく いつまでも叫び続けている
まだ信じていてほしいって まだ生きていたいって

閉じた扉の向こうから 言葉が言葉が溢れてくる
それはついに僕を飲み込んだ どうやら時間が来たようだ
今度はうまくやってくれ 新しい自分に引導を渡す
とめどなく溢れてくる ずぶずぶと言葉に溺れていく

ずぶずぶと言葉に溺れていく


自由詩 言葉に溺れていく Copyright itukamitaniji 2016-03-18 16:19:43
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