蒼と青と藍の底で
乱太郎
奥深く海底の熱水床
わたしが今呼吸をしている処
群がる白い蟹は
わたしであるための遺伝子を
鋏で千切りまた繋げる
染色体を失った肉体だが透明ではない
保護色を身に着けたわけでもない
しかしわたしを見つけるのがどれ程困難な事か
わたしは長く知らなかったが
わたしは
わたしという鎖のみ
生き物と鉱物のどちらにも属さない
ひと科には永遠になれない
大きく発達した前頭葉
自己と他者を結びつける感情
有限に滅びながらも永遠への回帰
青い世界で生きているという
想像でしかない自由とか未来へとか
流れ落ちてきた巻貝が物語を響かせて
わたしを閉じ込めようとしたこともあった
白い砂浜へと
わたしは此処で
足も手もないそして口もない
人間と呼ばれていた太古の記憶は
もう忘れてしまいたい
美しかった想い出だけを抱いて