the church
うみこ

雨の中
透明な傘をさした人が
聖書を持って列をつくっている
黒い群れの中で
三方金の本は光っている
みんな口を閉じている

道路をはさんだ向こうのバス停で
青年が一人、列が動くのを見ている
アスファルトの雨をさらう車の音が断続的に聞こえる

何の祈りの日とか
そういうことは
知識が無くてわからない

今日のあさ、彼は鶏ガラのスープを飲んだ
そのときから雨だったし
そのときから、多分列はできていた

利用者のほとんどいない
バス停のベンチに座って
彼は列を見ている
彼の足元に
流れてきた水がたまっている

あの教会の中では
蝋燭に灯がつけられて
穏やかに
祈りがおくられている
降車客のいないバスはいちいち止まる
じっと座ったままの彼をおいて
バスは走り出す

あの建物の中では
蝋燭の灯のように
穏やかに
しかし強く、
何かが信じられている
雨に濡れる
人のために
人々が読みたかった
聖書のために

街じゅうを雨が流れている
その街全部を薄く覆って
表面を微かに、一斉に、動かしている
彼は口を閉じて
列を見ている
膝の間に手を挟んで
その手を組んでいる










自由詩 the church Copyright うみこ 2016-03-15 23:55:56
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