空白の果実
ただのみきや

籠から溢れそうな
熟れた果実の
すこし傷んだ
あまい匂い
視線は蠅
めまい/匂い/めまい
スケッチしながら
溺れている
出口のない部屋
ぬるい潮が満ちて
鋭い線が
削り盗り
移す
小刻みに
走る音
写し取り
刻む
色彩は封印され
記憶のアトリエに
未完のまま曖昧に
濃く 萌えて
匂い/あまい/匂い
消しゴムは
対象を消しながら
自らも消失して往く
白紙には奥行があり
奥行には境界がない
振り向いた
マリーゴールドだったのか
一瞬で焼かれ
ネガになった
顔は
笑っていたのか
籠から崩れて往く
果物は灰として
絶たれていた
スケッチブックは黒く
蟻たちが蠢いて
進行し続ける
時間の
熟れ過ぎた饐えた匂い
無いものを失くした喪失は
埋められず
文字の群れが
幻を運び去り
解体する
まよい/めまい/におい
ゆらぐ
果実ひとつ分の 
       ――空白




      《空白の果実:2016年3月12日》







自由詩 空白の果実 Copyright ただのみきや 2016-03-12 22:07:58
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