春を飼う
かんな




穏やかな日々を
カップに入れて朝を飲み干す
苦みや甘みを口にふくむ
めぐるという
気づかない音色に耳をそばだてる
あれから

かわらないものを撫でる
空を切りわける風に
目をこすると涙がひとすじ流れた
愛を引っかいたから
血が流れたのかわからない
だれも悪くないという

みんなでという風向きが
つぐないのように荒波をたて
しあわせを押し流すことに気づく
爪さきでぎいーと音を立て
春がこすれると
花弁の色づきが濃くなった

明るいみらいのために
暗いいまを歩くのは違っている
あれから
大きくかわったものは
夫と息子が傍にいるということ
なくす
という怖さについて知り
かなしみを想像しはじめたこと
これから

あたたかな木漏れ日をたもって
空があおい
片手で掴めるものはちいさいけれど
掴めるひつようはない
カップに注いだ
ひかりを飲み干すと
こころには
もう春を飼っていた






自由詩 春を飼う Copyright かんな 2016-03-11 12:26:19
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