桃始笑
nonya
桃始笑
ももはじめてさく
コートを脱いだら
沈黙していた鎖骨が
独り語りを始める
ポケットから出た
あてどない指先が
止まり木を探している
音符を思い出した
爪先が奏でるのは
メンデルスゾーンのイタリア
ふうわりと解けた
毛細血管を満たしていく
輪郭の不確かな母音
風のカーニバルが
前髪をさんざん弄んだ揚句
明るい色を忘れていくけれど
むず痒い粒子に
憑りつかれてしまった
優しすぎる粘膜がうらめしい
堪え切れず
遊歩道に轟かせた
くしゃみ
に
驚いて振り返ったあなたが
桃色に咲った