フォーマルハウト
TAT
今ここにモーターがひとつある
オレのモーターだ
もちろん回っていて
熱を持ち
震え
嘶いている
まさか一日中フル稼働させる訳にもいかないから
なるべく八時間は休ませる
ギアを低速にし
濡れたタオルをかける
油も差してやる
このタオルもまぁまぁ汚れてきたから替え時だ
油もまた買わなくちゃ
幾つになっても低スペックで
ガタガタブルブル
ヤんなっちゃうけど
ガレージに屋根があるだけまだマシなんかもな
野ざらしでタオルも無いようなモーターもある
巨大な工場に距離も置かずに並べられ
休みも無しに回されて
隣のモーターの熱で引火して焼き切れたり
バケツの冷却水をぶっかけられたり
不幸な事故で一気に電源が落ちたり
そんなモーターもある
無茶苦茶だ
ひでぇ話だ
片や
空調の効いた完璧な温度管理の抗菌ルームで
徹底的にケアされながら静かに回り続けるモーターもある
が
どのみち最期はみんな焼き切れる
まさか電源コードを抜く訳にもいかないから
最期は彼らも天に召される
本質的に
命題的に
だから嘆いている暇があったら
オレらはオレらのモーターを
君らは君らのモーターを
今日もまたひとつモーターが焼き切れた
大酒飲みで調子屋で
喧嘩っ早くて鰻が好きで
ガラケーで腕のいいクロス屋で
四人の子供の父親で三人の孫の祖父で
無学で
働き者で
Fighterだった
オレは夜空を見上げる
比喩や表現じゃなく実際に
愛しい人が今そこを渡るにあたって
この出鱈目な広さは何だ
深く湿った空だ
羅針盤も持たずにどこへゆけと言うのか
ただでさえガラケーで
Google mapも入ってないのに
オレは灯台になりたい
オレは管制塔になりたい
愛しいひとが悪い星座に騙されないように
オレはひとつひとつの星をサーチライトのように燃やす
りゅうこつ座になりたい
今そこに回っているモーターがひとつあるだろう
せいぜいそれを大事にする事だ
へびつかい座に担がれないように
自分と自分の魂に辛い思いをさせないように