ミステリアス・パロディは月夜を染めて
りゅうのあくび

Code C
人影と物陰をよく間違うのは
孤独ではなくて暗闇があるからで
月夜はひかりと影とを
沈黙の大地に捧げた

Code D
潮騒が聴こえるはずの海辺に
大きな月影の欠片さえ
映っていて深海の底には
冷たい金属と
樹脂やプラスチックやらで出来た
機械の海底が
どこまでも続いている
月光の灯かりを溜めて
白い雨を集めて大河が流れ込む
白濁した海水には
熱い電気と幾兆幾億を超える
限りない無数の記号が
溶けている

Code E
謎めいた哀しいだけの嘘には
めぐすりを少しだけ差しながら
いう言葉もなく小さな春の月夜に
ただ散り逝くばかりで
花の弁だけが堕ちている道があって
形だけでも新聞配達が朝を届けるみたいに
新しい明日を待ちながら
次のページをまだめくらずにいる
のーとには白い色彩の未来があって
詩になりそびれた想いを描こうとして
にわかに想い付いたばかり
宛先もまだないけれど
てさぎょうは面倒でもない
てんきだけは快晴が続くことを充分に祈る


ちょうど昨晩の月夜は
ずっと遠い月影だけが
澄み渡る場所にあった
やや白濁した海には
月のひかりがずっと遠くから
届くことを待つ
夢の欠片ではない
雲もひとつない空が運ぶ
月夜は優しく海を包んでいる
いつもより静かな海は春風のなか
海岸線に波を打ち寄せることが
まったくできずに
ただ薄墨色の彩りだけが
月夜をようやく染める
ミステリアス・パロディが始める

そう詩人たちにとっては
彼の詩はただの我儘みたいに
渡り鳥たちが海に映した
影の群れを描いていたとばかりだと
想っていたけれども
本当のところ
それは思い過ごしだったのだ
仕事から帰る途中で
僕自身の影に
彼が描く詩にとても似た
影を見つけて
それが渡り鳥の影でもないことに
先ほど気付いたばかりだった
つまり自分自身の影でさえ
彼の詩のなかで
描かれていることにふと気付く
少し謎解きを試みることにした

そっと海の遠くを眺めると
その詩人の風変わりな
性癖に満ちた思慕に
暮れる詩情は
すでに薄墨色の影でしかない
ひたすら多くの
詩人たちの影を作り続けていた
ミステリアス・パロディが
数々の詩人たちの
彫像に影を刻むころ
月灯かりは夜霧に
ちょうど隠れていた
詩人の影は気象によって
作られるわけではない
影を作ることができる
詩人がいるということが真実である
それが答えのひとつ目だろう

海辺に託された言葉が
透明な足跡のかわりに
無数の影として残っていて
もちろん隣人であり詩人でもある
黙ったままの不幸でさえも
静かに芽を摘まれていた
少し理不尽な言葉たちが
何かの文字列として
渡り鳥の歌のかわりになれずにいた
叫びのように時を刻んでいる
薄墨色の影とはやはり言葉で出来ている
それが答えのふたつ目だろう

ミステリアス・パロディは
冗談みたいな嘘をつきながら
透き通るネオンサインのように
まるで不思議な月夜を
妖しく染めている
ジークムンド・フロイドの亡霊たちが
新月の暗夜にたむける情熱みたいに
セクシャル・パロディによって
月影が
遠く浅い海で踊り出す
愛という切ないひかりに照らされて
音のない言葉が
浮かび上がる静寂がある
真夜中の海は
月夜に包まれながら
密やかな恋の影を映している
それが答えのみっつ目だろう

月夜を迎える
詩人たちだって
愛しい人の影を
そっと胸に抱きながら
朝の陽射しを迎えるために
眠りに就くだろう

もはや彼によって
複製された冷たい影は
きっと無垢な春風によって
詩人たちに確かめられるだろう
罪深い月影やらは
眩しい朝の太陽から
静かな告白を待ちながら


自由詩 ミステリアス・パロディは月夜を染めて Copyright りゅうのあくび 2016-03-06 20:11:06
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