@mail (生体反応の設計)
乾 加津也
1
外が言う聖域なき改革に
少し笑ってから
だれにも教えるつもりのない
ひとつのメールアドレスを
登録して機能させる
(そこはサイバーエリア)
(そこは賃貸住宅)
に
行く
わたしが自らの意思を曲げなければ
決してだれも訪れないはず
すなわち聖域
人影のない
ひとりの居心地は
こころの国の
こころの首都といえる
こころの首都には
透きとおるわたしたちが働き
透きとおるわたしたちが納税する
また少し笑う
2
まずはソファ
部屋の中の様子をひととおり眺める
空白以外のゆらめきは追わない
時間になじんできたら
ゆっくりとキッチンに近づく
立ちのぼる
湯気の先から消えてゆく
珈琲はないだろうか
テレビも窓もない いや 見上げれば
高い天井に細長い検索窓がある
文字カーソルがしずかに明滅している
入力を待っている
3
小学生の夏休みに来た朝の駐車場は
ラジオ体操の集合場所
たくさんの律儀な深呼吸が
とても浅い
わたしはみんなになれるだろうか
首に吊るすカードに
大人の押す認印の数が増えていく
朱肉がわたしを
みんなのわたしに変えていく
4
目を凝らして
天井の検索窓を
もう一度見る
経緯度直下で十字を打つ
脳の
この無法地帯のアドレスから
キーボードを引き出し
moも kuく teて kiき
と打つ
5
コミュニケーションには
正しくはコミュニケーションツールには
壁も
門も
ブレも
認証番号もあるようだ
読まれているようで実はだれも読んではいない
リードで繋ぐ新聞紙がある
頬でコンクリートの冷たさを知りたい
のに
女のヒールの痛みを感じたい
のに
デザインを遂げた塗料(インク)から
見当違いの出来事をひっきりなしにしゃべりまくる
しゃべりの数だけ新聞紙になれる(と信じている)
6
もう六時
外で刻々と移りゆくのは
光 と 影
立憲主義は教育を促す
雌鶏に集う雛たちは
等しく足し算を学習する
その教室にヘビが侵入?
ニュースメールも届かない
およそ五十年の賃貸
こころのために
セールスコピーを考えた
あなた以外の
だれにも知られないお部屋です