無題
葉leaf


ある日一つの愚かさが生まれて、
流言蜚語のようにばらばらと伝染していきました、
でも人生は無窮の海よりも美しくて、
人生を形容することが許されているのは「美しい」の一語のみです、
人生は形容の分割力にどこまでも抵抗するので、
分割することなく肯定する「美しい」の一語のみが君臨します、
それでも風のように吹き荒れる愚かな気流は再生産を繰り返し、
切り裂かれた海が風景のあちこちに貼りつきます、
愚かさとは実は愚かさを語る者の硬い疲労でしかなくて、
疲労とは実は嫌悪を感じる者を取り巻く完全なまでの単純さでしかないのです、
氾濫する論理は乾いた惑星をどこまでも潤し、
爆発する倫理は平和な社会を掘削していきます、
真実というものは隙間さえ見つければ隠れようとしますし、
芯の無い皮だけの植物ですからすべての皮は等しく虚偽です、
力強く語られるものも雑踏の中でつぶやかれるものも等しく虚偽なのですから、
歴史とは真実の落とす影をつないでできる星座であります、
僕はいつだかあなたを愛していないと嘘をつきました、
僕はいつだかあなたを愛していると嘘をつきました、
客観的な幸せにはいつでもまぶしい方向ばかりが宿っていますが、
鳥の声を聴く幸せは方向を持たないやさしいかたまりです、
僕は黎明の空に逮捕されました、
罪状など何もなかったけれど黎明の空の薄赤い色彩を理解しすぎたのです、
僕は海沿いの松林に逮捕されました、
権力など死んでいましたが松林の構造があまりにも整然と僕を追い詰めたのです、
ですが社会人など好んで牢獄に囚われる逆立した人間で、
逮捕というきれいな言い訳など要らずいつでも身の回りは鉄格子、
僕の存在の枢軸は空っぽで様々な存在がそこに出たり入ったり混じり合ったりします、
その枢軸にガソリンのような液体が少しずつ溜まり始め、
他の存在の進入を邪魔するようになり枢軸は停滞しました、
僕の枢軸は花火のように夜空に打ち上がっては散華して、
その度に燃料の配合をどんどん誤っていきました、
枢軸が純粋に誤りそのものになったとき、
あらゆる道は死に至り朽ち果てていきました、
もはや草原には至る所に崖が発生し、
崖の側面には夥しい文字が書かれています、
自己の誤りも他者の誤りも社会の誤りもすべて一様に記されて、
責任の落ち着く先は流れていく雲のように不定形です、
それでも人生は美しさを美しさで幾重にも包括し、
降りしきる闇の指し示す地点から星座を作り上げました、
僕は歴史の星座と人生の星座を組み替えて過程の星座を作り上げ、
それは幽閉から解放への過程であり誤りから修正への過程でありました、
僕もまた一つの過程として闇を多彩にデザインしていきました、
色彩を物自体から盗み取って光を現象から寸借して、
僕の本体はただ死んだように停滞していても、
僕の分身は忙しないデザインと造形を誰にも見られずに遂行していきました、
ある日生まれた愚かさは強靭の槍のように聳え立ち、
愚かさなりの過程を経ながら星座に組み込まれていきました、
美しい人生は永遠に美しく単純で、
その過程の去っていく過程に僕の恢復の過程がありました、
何もかもがある日の平凡な午下がりに集約される過程であります、


自由詩 無題 Copyright 葉leaf 2016-03-03 05:13:26
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