冬風人
ただのみきや

風が突っ走って往く
いつか追い越して往った風たちが また
地吹雪は踊る 白いベールを靡かせて
渦巻いては解かれ素早くさらわれる
終わりなく交わされる遠吠え 
異言の霊歌 あるいはレクイエム
大河のように
陰鬱な空を映しながら
どこか時折 魚が跳ねるよう
ひとすじの陽気さが紛れている
子どもの風が一人混じっているのか
きのうは向い風だった
弄られ煽られ容赦なく
頬を打つ吹雪の冷たい手
氷粒の鑢が感覚を削り取る
眼球の裏まで凍りそうで――
今朝は 追い風
すごい力で次々と背中を押してくれる
なんともありがたい
白い踊り子たちは腕を搦め
風の馬車へと誘う 
いっそこの身と人の暮らしを脱ぎ捨て
共に往けたら楽しかろう
だが仕事に往かねばならぬ
息子が独り立ちするまでは
今の暮らしは変えられない
巡り巡る季節の旅人よ
歌い踊る冬のジプシーたち
何度でも再会し
何度でも別れ
追い越されて 遠く離れ
いつかまた 誘惑されて――
風が突っ走って往く
追い越して往った風たちが  
ほら また


        《冬風人:2016年3月2日》






自由詩 冬風人 Copyright ただのみきや 2016-03-02 21:54:53
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