火事

消防車が大通りを埋め尽くす
けたたましく鳴るサイレンの音のなか
たくさんの赤いライトが点滅する
何事かと人集りの方へ行ってみると
一軒家が燃えていた

炎は唸り声を上げる
周辺だけ灰色の嫌な煙に包まれ
灰の雨が降り注ぐ
ガラスなんて
とっくの昔に割れてしまった様だ
消防士の声が響き渡る
炎の姿をした悪魔と戦う後姿を
後ろから無心で見つめていた
それしかできなかったから。

建物の前にある商業用の旗だけが
燃えることなく虚しく佇む
旗から見たら
私達もあの旗と同族なんだろうか
炎がどれだけ燃えようとも私達には
どうすることもできない
余りにも非力すぎる。

今日の朝までここの住人も普通の日常を過ごしていたのかもしれない。
少しずつ積み上げてきた日常を一晩で炎が燃やし尽くしてしまった。
「人間も炎の前では無力なんだよ、僕と一緒だな」
とあの旗が囁く

炎は、すっかり消し止められた
顔も知らないあそこの一軒家の住人は
無事なんだろうか


自由詩 火事 Copyright  2016-02-29 10:08:26
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