感覚
鷲田

明日を生きることを辞めれば
私は現実を見ることができるのだろうか
現実は淡い霧の中に
木漏れ日の陽光が漏れる場所
明るさは角度に反射し
暗さにより大半の視界を覆う
私の視力は世界を見るために与えられた力
生い茂る樹の葉の緑色を
そこにぶら下った赤い果実の身を
ただ食すという事実のために

夢と言う幻想に憧れを捨てることが出来れば
ここにある一杯のコーヒーの旨みに
幸せを感じることが出来るであろうか
幸せの歩みは
遥か遠くから聞こえてくるものではなく
それは固いアスファルトの上を歩く
日常の足跡
私は歩んでいるのだ
今を!今を!今を!
道の果てを問うのは辞めよう
見えるのは今日の、今の、この瞬間の景色だ

何が起ころうが恐れはしない
雨の冷たさに濡れて感じる寒気が私を勇気付ける
恐れるのが明日なら
明日を忘れて生きればいい
恐れるのが未来なら
未来を忘れて生きればいい
存在するのは今だ
横たわる私の身体一つだ
恐れるのが現在ならば
この冷たい雨を浴びればいい
そして、感じればいい
その冷たさを、その寒気を
それは恐怖でも不安でもなく
一つの感覚だけなのだから

私達が期待し、希望し、不安に思っているのは
遥かな未来
まだ見ぬ明日
それはまだ存在しない設計図
私達に重要なのは一つの感覚
一杯のコーヒーを美味しいと感じるその感覚
感覚に恋をせよ
感覚に生きよ
そして今を見つめよ 
その瞳の光はここの景色を見るためにある


自由詩 感覚 Copyright 鷲田 2016-02-28 23:35:50
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