赤い砂浜
あおい満月

チューブを流れる水流のような
朝の通勤路を、
外れて、
うつりこむ硝子のなかに
入り込みたくなる瞬間がある。

ばたん、と、
荷物を落とした、
そこから私の旅がはじまる。
硝子が割れて、
そこから道が導く。
私は呼ばれるがままに入っていく。

知っているはずの景色が、
感じた瞬間他人になる、
そんなことばを思い出したとき
見知らぬ誰かの腕のなかにいた。
腕には純白のレースが巻きついていて、
はなやかな笑い声のなか、
私は乳児になって、
床に散らばったビスケットの
欠片に手を伸ばしていた。
ビスケットは少し塩辛い味がした。

誰かが呼んでいる。
ここは砂浜で、
砂は血のように赤い。
あたながまた若い、
ながい髪を揺らして私に手を、
振っている。
私を呼ぶあなたの声の棲みかが、
大きくなって、
洞窟になって私を待つ。
洞窟のなかから泣き声がする。
あかんぼうになった聞きなれた声。

気がつくと、
硝子は閉じられていた。
肩を叩かれて振り返ると、
血まみれの少女が、
大きな刃物を私に向けている。
少女は私だ。

私は知っている。
あの赤い砂浜は、
私の体内だと。

ごらん。
下腹部か熱く赤く、
膨れ上がっている。




自由詩 赤い砂浜 Copyright あおい満月 2016-02-28 12:58:12
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