しずく 交錯
木立 悟
雪の下の
肌色の蝶
何もかも
左目の隅に置き忘れた朝
血の涙を流す鳥の背に
雪と鉄の音は降る
水のなかから空を見る径
光の傾きに消えかけた径
なかば沈んだ街の先
海に建つ牢獄の岩壁から
言葉が剥がれ落ちてゆく
ひたひたと白い 波の下の波
じっと空を見つめたまま
歌わぬ鳥の樹の下を
花の背の猫が過ぎてゆく
見え隠れする雨を追って
陽に溶け残る祈りは流れ
午後へ向かう坂を下る
囁くような寒さの棘が
硝子と硝子のはざまに震える
午後の終わりに午後は残り
夜はいつまでもはじまらず
花は曇の光を見つめ
はばたこうとする羽を見つめる
海へ落ちる瓦礫の音に
紅いしずくの鳥は振り向き
朝のかたち雨のかたち
歌のかたちの雪を見る