好色と呼ばぬ山河に捧ぐ
もっぷ

わたしがまだ
あなたの子孫の
最初の日にはもちろん
衣服を身に着けると知らず
もちろん衣服を選ぶことも知らず
もちろん日本語は持っているわけもなく

いつかのご先祖様のあなたは
愛を語らず抱き合ったはずでそして
母さんと同じように孕んだそののちの世界で
わたしは動物園の檻のなかではなく
いま 一つのビルの一つの部屋に居ます

いつかのあなたが
空の下 緑の山で 土の上に
産み落としたに違いない
こどももやはりご先祖様で

お線香はあげなくてもよい
偲ばなくてもよいのだと
線引きしたのは誰がいつから
それはどこから わからないままに

きょうもふと想っているのでした
ごめんなさい ではなくて
ありがとう でもなくて
わたしの知らない時の連綿を

知っていますか たとえば
原人と呼ばれるご先祖様
わたしはあなたから遠くそれでも

生きています
あなたにはもはや
気づいてはもらえなくても

ここは地球と呼ばれる星となり
ここは日本という名の国で そこで
わたしはこの日本語で詩を書きながら
命日を二つだけ覚えてきょうも生きています



自由詩 好色と呼ばぬ山河に捧ぐ Copyright もっぷ 2016-02-25 17:23:21
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