活イカ
ただのみきや

無い背筋を伸ばし
まな板の上にぬっと立つ 
おまえの
下段から冷たく射るような
視線――まったく読めやしない
包丁を握り
ジリジリと
間合いを詰める
――突然
ながい触腕(しょくわん)が手首に巻き付いた
《おのれ素早い奴め》
いっそこのまま引き寄せて
包丁で一刺にしてやろう
ところが奴のトンビ口が
おれの包丁を白刃取りで止めた!
予想以上の手強さだ
するともう一本の触腕が死角をついて
おれの膝を搦めとる
《しまった! 》と思った時にはすでに遅く
スミをくらって視界を塞がれてしまい
あわてて顔を拭う ―――《殺気! 》
残り八本の腕がおれの頭に飛びついた
一挙に抱え込まれ
鼻先にトンビ口が迫る
《危ない! 》
――間一髪
包丁を真一文字に諸手で受けた
しかし奴の力は半端じゃない
ぎりぎりと引き寄せられる
おれは顔を思いっきり捻って
奴の腕の一本を齧り取った
《美味い! そして甘い! 》
ああ醤油が 刺身醤油が欲しい
そして おそらく たぶん きっと
ワサビよりおろし生姜が合うだろう
だが 果たして 
無事に食べることが出来るだろうか
こっちが食べられる可能性も ――ああ
だから活イカはよせと言ったのに
結婚して二十年になるが
妻はまだ理解してくれない
おれが目の前の生き物を
自分と等身大に見てしまうことを



             《活イカ:2016年2月24日》






自由詩 活イカ Copyright ただのみきや 2016-02-24 19:18:14縦
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