ゴミ袋と手首
wakaba

寒い朝、可燃ゴミの日だったので、袋をまとめてゴミ出しに行った。

ゴミ置き場にはたくさんのゴミ袋が山のように積み上がっていて、
そばではカラスが一匹、首を傾げながら袋の中身をじっと見つめていた。

僕は持っていたゴミ袋を、ゴミの山のてっぺんに向かって放り投げた。
くしゃん と音を立てて、転がり落ちる僕のゴミ袋。

その瞬間、テレッテレーという効果音がどこからともなく鳴り響き、
ゴミ袋の山の隙間から白い手首がニュッと出てきた。

青白い手首だった。
ためらい傷の跡が無数についている手首だった。
手首はクルッと回転して手のひらをこちらへ向けた。

「ここで問題です。女の人が手首に傷をつける仮説的理由を、現代社会が抱える問題点を主軸とした150字以内の簡潔な回答で述べなさい。」
手首が喋った。

あっけにとられていると、後ろを通り掛かった老人が、
「自分だけ心に傷を持って生きてると思ってたらあんな風になる」
と僕に囁いた。

するとブッブーという効果音が大音量で鳴り響き、手首が大爆発した。
周りのゴミ袋もいっぺんに弾け飛んで大爆発した。
いろんな汚物が辺りに飛び散らかった。

僕は全身汚物まみれになった。
僕はことの理解が全くもって追いつかなかったので、
とりあえず「えっ」と言うことしかできなかった。

老人も汚物まみれになっていたが、
少しの沈黙の後、「最近の若い奴は...」
と何故か僕に少し説教をしてから、逃げるようにその場を立ち去った。

そばにいたカラスは僕らを少し見つめた後、
ケラケラ笑って何処かへ飛んで行ってしまった。

そんな寒い朝、可燃ゴミの日。

為す術なく立ち尽くす僕。
目の前にはどうしようもない、もう誰も片付けないであろう汚物の海が、
辺り一面へばりつくように広がっていた。


自由詩 ゴミ袋と手首 Copyright wakaba 2016-02-23 07:38:10
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