森の旅人
ヒヤシンス


 窓から覗く森がまだ霧に包まれている朝、
 僕は一人静かに部屋を出る。
 森の木々から聞こえてくる鳥達の囀りが、
 昨夜聴いていたベートーヴェンの弦楽四重奏曲の余韻を少しずつ消してゆく。

 外はまだ冬、道端に雪が残るのも楽しい。
 寝ている家族をそのままに、僕は一人散歩する。
 木々の名前すらろくに知らない自分に憤慨しながら、
 路肩にやさしく咲いている花を愛でる。

 霧は思いのほか深く立ち込めている。
 僕はこの大自然に朝の挨拶をする。
 おはようございます、とはなんて素敵な言葉なんだろう。

 誰かに会ったら挨拶しよう。
 今無性に誰かに会いたい。
 僕はこのまま森の旅人になろう。
 


自由詩 森の旅人 Copyright ヒヤシンス 2016-02-20 04:06:42
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