森の旅人
ヒヤシンス
窓から覗く森がまだ霧に包まれている朝、
僕は一人静かに部屋を出る。
森の木々から聞こえてくる鳥達の囀りが、
昨夜聴いていたベートーヴェンの弦楽四重奏曲の余韻を少しずつ消してゆく。
外はまだ冬、道端に雪が残るのも楽しい。
寝ている家族をそのままに、僕は一人散歩する。
木々の名前すらろくに知らない自分に憤慨しながら、
路肩にやさしく咲いている花を愛でる。
霧は思いのほか深く立ち込めている。
僕はこの大自然に朝の挨拶をする。
おはようございます、とはなんて素敵な言葉なんだろう。
誰かに会ったら挨拶しよう。
今無性に誰かに会いたい。
僕はこのまま森の旅人になろう。