夕暮れ
佐藤守
忘れられた町に
明かりがともり始める頃、
決まりきったいつもの動作で
鍵盤の蓋をあけた女の子は
機械みたいに指を動かした
悲しい音色を奏でたけれど
悲しさなど少しも感じなかった
窓の外では、
路地裏で遊んでいた数人の子どもたちが
次々に帰路につき
最後に男の子がひとり残った
帰るべき場所が
分からなくなったのだ
やがて、
町に静寂が訪れると
笑い声も、ピアノの音色も
何もかも失せて
そして、慌てて
しわがれた耳をすますけれども
もはや何も聞こえない
何も思い出せない
自由詩
夕暮れ
Copyright
佐藤守
2016-02-18 22:19:37