塀の中が生きる世界の全てだとしても
イナエ

花粉も埃も取り去った無菌室で
くらしていますが
危険はどこかに潜んでいて
いつも隙をうかがっているのです

みがききぬかれた手すりが
不思議なことに
摩擦をなくしていたり
すべらないゴムスリッパが
平らな床でつまづいたり

空からとどく魅惑に満ちた波動
こっそり入り込む微生物
これら法に縛られないものたちは
ワクチンやガードの編み目を抜け
からだの中へやすやすと忍び込みます

へだてられた外の世界が
どんなに広がっていようとも
見えない塀が有って
住める世界はわずかな空間
ここに居ても
頭の中は無限に広がって
過去にも未来にも
宇宙のはてまでも行けるのです

吹雪く窓の外をながめ
時を忘れた生活にふっと幸せを感じるとき
そんなときがいちばん危険です
長い年月のささやきが一度におそって
希望でかためたバリアは破壊されそうで


自由詩 塀の中が生きる世界の全てだとしても Copyright イナエ 2016-02-15 18:32:07
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