塀の中が生きる世界の全てだとしても
イナエ
花粉も埃も取り去った無菌室で
くらしていますが
危険はどこかに潜んでいて
いつも隙をうかがっているのです
みがききぬかれた手すりが
不思議なことに
摩擦をなくしていたり
すべらないゴムスリッパが
平らな床でつまづいたり
空からとどく魅惑に満ちた波動
こっそり入り込む微生物
これら法に縛られないものたちは
ワクチンやガードの編み目を抜け
からだの中へやすやすと忍び込みます
へだてられた外の世界が
どんなに広がっていようとも
見えない塀が有って
住める世界はわずかな空間
ここに居ても
頭の中は無限に広がって
過去にも未来にも
宇宙のはてまでも行けるのです
吹雪く窓の外をながめ
時を忘れた生活にふっと幸せを感じるとき
そんなときがいちばん危険です
長い年月のささやきが一度におそって
希望でかためたバリアは破壊されそうで