◎漂流の窓
由木名緒美

宙に浮かんだ多面体の器を
銀河の零した蒸留水が満たしている
捧げる願いは光線となり壁面を通過する
その中で胎児のようにうずくまり
あらゆる業と宿命を反芻したかった

見上げる夜空に散らばる光が
セラミックの残骸ならば
幼い頃に地面を探って集めたプラスチック片のように
偽りのダイアモンドが普遍の価値を覆す
意味付けは時として残酷で
あなたが偽りなく真意を説く程
真実は亀裂を鮮やかに映し出す

四肢から滲む涙
生きている間は桃源郷の門が閉ざされていることくらい
知っておけば良かったのにね
自己愛は完結した瞬間 熱い体を引き離す

名を呼ぶ声に肌をそばだてて
唇を這う無欲の温もり
電気ケトルの蒸気に沈黙が潤う存在の追認に
互いの耳の震えを共有し合うのです
結露した夜の窓に姿は映らない
肩にまわされた腕が解く純粋な暗号を
深夜の黙祷に委ねたら
響き合うのは大きさの違う二つの心音
赤く燃える星々を宿して
溢れ出す生誕のはなむけ
蝋燭はかすかな余命にその芯を震わせる


自由詩 ◎漂流の窓 Copyright 由木名緒美 2016-02-08 00:04:41
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