単焦点
nonya


単焦点のレンズをつけて
春を探しに出かける

低い雲が垂れ下がった街は
名前の無い色合いで
マフラーの内側の囁きは
聞き覚えの無い言語で

嫌なものは
ぼんやりとしか見えない
単焦点だからフォーカスしなければ
薄汚いものは
ぼんやりとしか見えない
いや
小綺麗なものと判別がつかない

行先も混沌とした人らしき流れを
拙いクロールで掻い潜って
やっと見つけた

お稲荷さんの狛狐の下で
うっかり咲ってしまった小さな花を
切り取る

角のとれた石段の上で
野良猫の鼻の頭にとまった光を
切り取る

近づいて
しっかりとフォーカスしなければ
見えてこない温もりと匂い
あなたの面影が浮かんでくるのを
苦笑いで遮る

春は「そのうち」やって来る
でも
「そのうち」がなんとももどかしい
もうやって来ないのではないかと
たまに心配する

「そのうち」を
なんとかやり過ごすために
とびっきり明るいレンズで
春にフォーカスする

ゲシュタルト崩壊するほど
春だけにフォーカスして
寒過ぎる景色と言葉を
ぼんやり遠ざけていれば

「そのうち」はいつか
「かならず」に見えてくるのだろうか




自由詩 単焦点 Copyright nonya 2016-02-07 14:46:25
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