ルービックキューブ
wakaba

僕たちの仕事、
それはぐちゃぐちゃになったルービックキューブを、元の形に戻す仕事。

僕とひろみちゃんとたかしくんは、
一切の外気が遮断された部屋で、
ベルトコンベヤーから運ばれてくる大小様々なルービックキューブを、
ひとつひとつ元に戻していく。

次から次へと運ばれてくるルービックキューブ。
日に日に山積みになっていくルービックキューブ。

完成の目処が立たない手元のルービックキューブに頭を抱えて過ごす日々。
ルービックキューブだらけで頭がルービックキューブになってしまいそうな嫌な日々。

僕は溢れそうになる涙をこらえながら、
ぐちゃぐちゃのルービックキューブをしぶしぶ手に取り、
今日もまた黙々と、カチカチ作業に取り掛かる。

ひろみちゃんは無表情でルービックキューブとにらめっこしている。
黒豆のようにつやつや光る目玉をひん剥いている。
時折「あの時契約して魔法少女になっていれば…」と
意味のわからない独り言をぶつぶつ呟いている。

たかしくんはなぜかいつも笑っている。
笑いながらルービックキューブを手に取り、
ものすごい握力で粉々にする。
そして無理矢理元の形に組み直して爆笑している。

僕はこのふたりと幼馴染なんだけど、このふたりが昔から苦手だ。
ひろみちゃんは何を考えてるのかがわからないし、
たかしくんはなんでも握力で解決しようとする。

この密閉された空間で、このふたりと長時間ルービックキューブをいじっている。
そんな毎日に僕は気が狂いそうになる。

夕方になるとピンポンパンポンとチャイムが鳴り、今日の仕事が終わる。

部屋から解放されて、
ひろみちゃんとたかしくんは目にも止まらぬ驚異的な速度で走って家に帰る。
僕はふたりの残像を見送って、ひとりとぼとぼ歩いて家に帰る。
そして夕陽を眺めながら僕は考える。

この世界がルービックキューブだったらいいのに。
嫌なことは全部回転させて、
あっちこっち入れ替えできればいいのに。
そして全部ぐちゃぐちゃにしてしまえばいいのに。

でも。

ぐちゃぐちゃにして八方塞がりな状態にしてもきっと、
それでも組み直そうとする知らない誰かがやってきて、
また元の統一された形状に少しずつ戻していくんだろうな。

僕やひろみちゃんやたかしくんが毎日そうするように。
苦悩しながらカチカチと。
無表情でカチカチと。
笑いながらカチカチと。
カチカチカチカチカチカチと。


自由詩 ルービックキューブ Copyright wakaba 2016-02-07 07:38:23
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