梢が春となる頃に
もっぷ

私は一篇の詩になりたい
それはたとえば路傍の風景

私は何も語りたくない
私としてのさびしさなど

私は私でありたくない
私にとって 私でありたい

私にどうしての父母があるか
多分に偶然でしかない

ひとであるより石ころや
あるいは風を頼りとする花

水平線を越えゆくはずが
負傷し砂にいだかれる渡り

すでに郷から捨てられていて
四季にみかける鴎のような

いまよりはるかに身の上に近く
いまよりはるかに靴から遠く

雪の降らない南の海で
雪に焦がれる人魚のように

少女の鞄の手帖のなかの
そっと消えたい或る日のように

遡上のあとにも命ありたい
鮎の懸命な祈りのように

橋の下に居る自分は何故と
雀に問いたいみどりごのように

名乗らぬ町のさやかな庭で
梢が春となる頃に

私は言葉を喪って 一篇の詩になりたい




自由詩 梢が春となる頃に Copyright もっぷ 2016-02-06 21:36:55
notebook Home 戻る