観覧車



どれくらい時間が経っただろう
もうずっと
海の見える街で
透明な観覧車に乗り
まわっている

昼間の
高い位置からの眺めにみつけた
泳ぐ船体はすこしずつ南方へ向きを変え
遠ざかっていく
その途中
無数の小窓がいっせいに
陽を反射する
光あれ!
波のまにまに漂う乗客たちの希望は
きらりとまぶしい
わたしの鼻にあたる風は冷たく
海はさらに波立つ

*

夜中には
わだかまるような風が入ってきて
なかなか寝つけない
星々のまたたきに手を差し伸べると
それぞれ異なる時空で放たれた光が
てのひらを通り抜けていく
昨日のものもあれば数百年過去のものもあり
言葉みたいに
そう
つかまえようとしてもたいていは
すり抜けて行く

ずっと星空を見つめていると
ゆっくり流れるちいさい光点がひとつ
あれは宇宙飛行士の
闇にきらめく金色のヘルメット
耳を澄ませば呼吸がくりかえされているのがわかる
今日から明日へ向かう途中をまわっている
彼だって

*

明け方 目を覚ますと雨が降っていて
かすかな声が届く
探すけれど
姿などなく地上には
からみ合って身動きのとれない街並みが
貼りついている
なのでわたしは
たかだかのひとまわり
部屋にいて手に入れたつぶて(記憶)を
向かいの座席にならべていく
ここが動かなくならないように
それらの並びがすこしでも意味を持ち
逃れられない明日へと
観覧車がまわっていくように

*

どれくらい時間が経っただろう
甘やかなうたたね
いつからか傍に座っている
きみの肩に耳をあてて
静けさを聴いている
ねえ
だれもに
光あれ
だなんて嘘ばかり
祈りがあれば結び目はほどけて
もういちど最初から始まるの?




自由詩 観覧車 Copyright  2016-02-03 01:24:35
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