トラブル
葉leaf
トラブルとは人が知らぬ間に
執務室の自分の椅子に腰かけるように
社会が血を滴らせて巣を作る場所に
何の予測もなく腰かけてしまうこと
そして社会の雛たちが嘴で突いてくるのと
ひとしきり格闘して勝利も敗北もしないこと
トラブルとは地形の不思議なカーブのように
理由もなく意味もなくただ歪んだもの
だがその乾いた亀裂のようなトラブルから
全く干からびて空無そのものであるトラブルから
人は意味を過剰に産出するのだ
トラブルはむしろ採掘の道具である
人が己からたくさんの学びと意味とを掘り出すための
非常に優れた切れ味抜群の道具
トラブルはそれ自体空無そのものであるからこそ
人の複雑さをどこまでも単純に切り出していくことができる
トラブルのおもて面の複雑さは
人の複雑さに他ならないのだ
人は己を切開するために
己を完膚なきまでに切り刻むために
トラブルという真空の道具を必要とする
社会とは畢竟個人を映す鏡でしかなく
社会自体に実体などはなく
世界には個人の内面だけがある
個人の内面が繁茂していくために
媒介となる無意味な装置
それが「社会」「公共」と呼ばれているのだ