トラブル
葉leaf


トラブルとは人が知らぬ間に
執務室の自分の椅子に腰かけるように
社会が血を滴らせて巣を作る場所に
何の予測もなく腰かけてしまうこと
そして社会の雛たちが嘴で突いてくるのと
ひとしきり格闘して勝利も敗北もしないこと
トラブルとは地形の不思議なカーブのように
理由もなく意味もなくただ歪んだもの

だがその乾いた亀裂のようなトラブルから
全く干からびて空無そのものであるトラブルから
人は意味を過剰に産出するのだ
トラブルはむしろ採掘の道具である
人が己からたくさんの学びと意味とを掘り出すための
非常に優れた切れ味抜群の道具
トラブルはそれ自体空無そのものであるからこそ
人の複雑さをどこまでも単純に切り出していくことができる
トラブルのおもて面の複雑さは
人の複雑さに他ならないのだ

人は己を切開するために
己を完膚なきまでに切り刻むために
トラブルという真空の道具を必要とする
社会とは畢竟個人を映す鏡でしかなく
社会自体に実体などはなく
世界には個人の内面だけがある
個人の内面が繁茂していくために
媒介となる無意味な装置
それが「社会」「公共」と呼ばれているのだ


自由詩 トラブル Copyright 葉leaf 2016-02-02 05:01:36
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