都女
為平 澪

ビニールテントのテラスから遮断された人と人
店の中でこじれる男女の恋愛騒動が綺麗に片付くころ
会社のやり方が気に入らない中間管理職同士のマグカップは 
同じ濃さの苦さで話をかき混ぜ 飲み干すことが出来ないままだ

駅に向かうハーフコートや腕を組み合うストールの女とジャケットの男
ビニールテントのテラスから みんなきれいに歪んで見える
幾度となく過ぎるバスのライトに顔を見つけられたなら
私は今日 表参道で縛られ吊り下げられる、顔のない黒い女になってみたい
マスクと仮面をつけた人の拍手喝采と気味悪い笑いの中で
もっと赤い口紅で薄気味悪く笑ってやりたい

でも、
私は、正月にクリスマスリースを着せられたまま放置されたカーネルサンダース
ドナルドの姿をして陽気に笑ってみるバイトの中身、カラ元気のような疲労が私
マスコットキャラの細い目に マジックで涙マークをつけてやりたい
みんな淋しいことを知っているから できるだけ楽しそうに街を彩りたがる
それぞれのステージでそれぞれの演目 
アドリブは華やかに毎日を弾ませる
そう、アドリブだから本気で泣く日なんか来やしない

明日や朝日が片付けていく 今日の憂鬱をビルの谷間に捨てるため
緑の山手線に乗せて渋谷経由で 赤い丸ノ内まで運んでもらおう
赤と緑のポインセチアは クリスマスにしか店頭を飾らないじゃないか
そんな対照色な生き方をしてみたくても 
雪が怖くてヒールもはけない臆病者では 
尖った音を立てることもない

帰路を歩む靴音が 現実を引きずって進むたび
表参道にいる私がこっちを向いて笑ってやがる
昼夜問わず、遊び疲れ果てる外反母趾にはなれなくて
所詮、会社と自宅を重い鞄をぶら下げて往復する
鬱病背負いの、膝関節症がお似合い愚さ

都にいるのにトウキョウに辿り着けない女
/私は都会で一番、不具合な女になりたい












自由詩 都女 Copyright 為平 澪 2016-02-01 23:25:48
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